「草木の色のものがたり―『あか』のお話し」、7月と8月のテーマは「茜(あかね)」です。


色の名前として耳にする機会の多い「茜」。
茜色と言われれば、夕日の色や赤とんぼの色を思い出すという方も多いかもしれません。
その他にも人名や曲名、文学作品にも使われたりとポピュラーな色名ですが、植物としての茜を見たことがあるという方は意外に少ないのではないでしょうか。
かく言う私も、草木染めを始めるまでは目にしたことがない植物でした。

このごつごつとしたもの、これが植物の茜。
正確に言えば、茜の根です。(写真は西洋茜)
地中から掘り上げた根の赤さ、あるいは根から染まる色の赤さから「赤根=あかね」と名付けられたと言われています。
上代から染められ、和歌の枕詞にも「あかねさす」と詠まれるように、日本文化には欠かせない植物です。
現在でも草木染めでは非常にポピュラーな染料で、染料店などで手軽に購入することができます。(ありがたい!)

ところで、染料店で一般に見かける茜は「西洋茜」や「インド茜」といった輸入物がほとんど。
日本で古代から染められている「日本茜」を染料店で目にする機会はほとんどありません。
開発などで茜の好む半日陰の山林が無くなり生息環境が失われてきたこと、つる性の厄介な雑草として駆除されてしまうこと、手軽に濃い色が染められる輸入の茜や人工染料に押されてしまったこと……
さまざまな要因から、日本茜はその数を減らし、今では貴重な染料となってしまいました。
日本茜を再生させようと尽力されている方々のおかげで探せば購入することができるようになりましたが、潤沢にあるというわけではありません。
特に都市部にお住いの方は、「その辺に生えていたのを引っこ抜いて染める」ということは不可能に近いのではないかと思います。

これが日本茜の地上部分。
一か所から4枚の葉が十字に生えているのが特徴です。
葉やつるは触るとざらざらしていて、他の植物に絡みついて生えていることもあります。
里山が残されている遊歩道や山のふもとの山林などで見かけることもあるので、注意して観察してみると出会えるかもしれませんね。

今回のワークショップで染めるのは西洋茜の予定です。
それぞれの茜にはそれぞれの細かい特徴があるのですが、茜全体の傾向として、色に独特の温かみと輝きがあると私は感じています。
それこそ「茜色の夕日」のような、明るさと優しさを兼ね備えたような色味というイメージでしょうか。
とはいえ、これはあくまでも私の印象であり、染める人によってまた感想は異なることでしょう。

植物も、人も、絹(蚕)も生き物。
日々揺らぎながら生きているもの同士が出会う一瞬に生まれるのが草木染めの色であり、その揺らぎがゆえに、草木染めの色に同じものはありません。
一期一会の色との出会いを、ぜひご体験いただけますと幸いです。

*草木の色のものがたり―「あか」のお話しと草木染めワークショップ
2カ月ごとに染料を変えて開催中です。草木染め初心者の方もお気軽にご参加ください!
https://20250712red.peatix.com